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[雪平]:
皆さん、こんにちは。
本日もよろしくお願いします
[絵名]:
ふう……
[絵名]:
(今日はどんな課題出されるんだろ。
緊張するな……)
[絵名]:
(このあいだ、静物画の課題描いた時は、
立体感が甘いって言われちゃったし)
[絵名]:
(前よりはマシになってきたとは思うんだけど、
まだまだ全然だな……)
[絵名]:
(……でも、そんなことで落ち込んでられない)
[絵名]:
(今日は、前よりもいい絵を描いてみせる……!)
[雪平]:
では、皆さんに描いていただく課題を
お伝えします
[雪平]:
本日は、イメージ課題です。
『孵化』というテーマを素描で表現してください
[絵名]:
…………孵化?
[雪平]:
制作時間は6時間、3時間後に一度休憩を取ります。
では始めてください
[絵名]:
(孵化……孵化……)
[絵名]:
えっと……
[絵名]:
(単語で考えたら、卵がかえることだけど……
でも、だからってそのまま描くわけにもいかないし)
[雪平]:
——時間です。では皆さん、講評を始めますので
絵を前に出してください
[絵名]:
(どうしよう……。
描けたには描けたけど……)
[絵名]:
……!
[絵名]:
(みんな、すごい……。
どれも私には思いつかなかったイメージばっかりだ)
[絵名]:
(特に、二葉の絵……。
卵の中で育った世界が、殻を破って広がっていく感じ。
すごくいいな……)
[絵名]:
(……どうして私は、
あんな風にイメージできなかったんだろ)
[雪平]:
——それでは、次。誰の絵でしょうか
[絵名]:
あ、はい! 私です。
……よろしくお願いします!
[雪平]:
東雲さんですね。
では見ていきましょう
[絵名]:
…………
[雪平]:
これは……卵から生まれた人間、ですか
[絵名]:
はい……。
孵化をして、広い世界を見た人間を描きました
[雪平]:
なるほど。
…………
[雪平]:
この絵で、東雲さんは何を表現したかったのですか?
[絵名]:
え、えっと……。
自分が見たことのない、新しい世界を見た驚きと、
高揚感を表現しました
[雪平]:
なるほど。であれば、もう少し目線や表情で
感情を表現したほうがいいですね
[雪平]:
しかし——
[雪平]:
東雲さんは本当に『新しい世界を見た時の驚きや高揚感』を
表現したかったのですか?
[雪平]:
私には、ただ思いついたから描いたというようにしか
見えませんでした
[絵名]:
……! えっと、それは……
[絵名]:
…………
[雪平]:
……では次のかた、いきましょう
[絵名]:
あ……
[雪平]:
——以上で講評を終わります。
皆さん、お疲れさまでした
[絵名]:
(本当に表現したかったのか、か……)
[絵名]:
(先生の言うとおりだ。
あの絵は、それっぽく描いただけで
……私自身が表現したいものは、込められてない)
[絵名]:
(……少しは成長できてるって思ってたけど、
やっぱりまだまだだな……)
[二葉]:
絵名ちゃん、お疲れさま。
……大丈夫?
[絵名]:
——ああ、うん。大丈夫。
いつものことだし
[二葉]:
今日の課題、難しかったよね……。
私もイメージ課題って苦手だから、
何描こうかすっごく悩んじゃったな
[絵名]:
え、二葉も?
[二葉]:
うん。私はどちらかと言うと、
目の前にある物を描くほうが得意だから
[二葉]:
いつも、先生には独創性が足りないって言われちゃうし、
イメージ課題では厳しく言われることが多いから緊張するんだ
[二葉]:
今日も、まだありきたりだって言われたけど……。
私が表現したいことは入れられたから、
ちょっとだけ、前に進めた気がするな
[絵名]:
……前に、進めた……
[絵名]:
(……そっか、そうだよね。
二葉も、みんなも……きっと私よりもしっかり考えて
課題に向き合ってる)
[絵名]:
(私も……ちゃんと向き合わなきゃ。
みんなに追いついて、いい絵を描くために……!)
[絵名]:
——雪平先生!
[雪平]:
……どうしました?
[絵名]:
あの、この課題……持ち帰らせてください!
私、納得できる絵を——絶対に描き上げてみせますから!
[雪平]:
…………
[雪平]:
わかりました。
それでは次回、お待ちしています
[絵名]:
はい、ありがとうございます
[二葉]:
絵名ちゃん……
<宮益坂>
[まふゆ]:
(今日は委員会、予定より早く終わったな……)
[まふゆ]:
(どこか寄って勉強するのもいいけど——
お母さんを心配させないように、早く帰ろう)
<朝比奈家 リビング>
[まふゆ]:
ただいま、お母さん
[まふゆ]:
……お母さん?
[まふゆ]:
(……リビングには、いない……?)
[まふゆ]:
(今日、どこかに行くって話は聞いてなかったけど……)
[まふゆ]:
(……買い物に行ってるだけかもしれないし、
部屋で勉強してよう)
<まふゆの部屋>
[まふゆ]:
…………!
[まふゆ]:
(え……? どうして……)
[まふゆ]:
え、と……。
お母さん……何、してるの?
[まふゆの母]:
——あら、まふゆ。おかえりなさい。
今日は早かったのね
[まふゆ]:
うん……。委員会早く終わったんだ。
だから、家で勉強しようと思って……
[まふゆの母]:
そうだったのね。
じゃあ、頑張り屋さんなまふゆのために、
今日は美味しいごはんを作らなきゃね
[まふゆ]:
う、うん。ありがとう。
えっと、それで……
[まふゆ]:
お母さんは——何をしてたの?
[まふゆの母]:
……ああ、勝手にパソコンを借りちゃってごめんなさいね。
ちょっと調べ物をしていたのよ
[まふゆ]:
調べ物……?
[まふゆの母]:
ええ。でも、もう終わったから大丈夫よ。
まふゆ、貸してくれてありがとう
[まふゆの母]:
それじゃあ、勉強頑張ってね
[まふゆ]:
う、うん……
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[絵名]:
孵化……。孵化、か……
[雪平]:
東雲さんは本当に『新しい世界を見た時の驚きや高揚感』を
表現したかったのですか?
[絵名]:
(私がこのテーマで表現したいこと……。
今度こそ、ちゃんとイメージしなきゃ)
[絵名]:
何かが生まれる……。
花開く、成長する……
[絵名]:
(——そうだ。画家として、もっと成長したい……
自分の殻を破りたいって気持ちを乗せてみるのはいいかも)
[絵名]:
(孵化する自分を描いてみよう)
[絵名]:
……うん、悪くないかも。
これで描いていこう
[絵名]:
……ラフはこんな感じかな
[絵名]:
(この前描いたやつより、悪くはないかな……。
今回はテーマ性もしっかり入れたし)
[絵名]:
(……でも……)
[絵名]:
(なんでだろう。この絵に描かれている自分が、
自分じゃないみたいに感じる……)
[絵名]:
(私自身、画家になりたいとは思ってるし……
これは自分が表現したいもののはずなのに)
[絵名]:
(構図がおかしいのかな……。
どこかパースが狂ってるとか?)
[絵名]:
(……でも、違和感があるのは“私”の姿だけだ。
腕も足もバランスが崩れてるわけじゃない)
[絵名]:
……もしかしたら……
[絵名]:
私が——自分のことを信じきれてないのかな
[絵名]:
(絵の基礎もできてなくて、毎回酷評されてる私が、
画家として孵化なんてできるのか……って、感じてるのかも)
[絵名]:
駄目だ……
[絵名]:
(このまま描いたら、また中途半端なものになる……)
[絵名]:
何か別のモチーフにしたほうがいいのかな……
[奏]:
『みんな、もう作業してる?
デモができたから、セカイに来てほしい』
[絵名]:
あ……! もうそんな時間?
まだ納得できるものが描けてないのに……
[絵名]:
とりあえず、セカイに行こう。
もしかしたらみんなと話してるうちに、
もっといいアイディアが思い浮かぶかもしれないし
<誰もいないセカイ>
[絵名]:
みんな、おまたせ!
[絵名]:
……って、あれ?
[絵名]:
どうしたの?
……もしかして、またなんかあった?
[瑞希]:
えっと……まふゆが、お母さんにパソコン見られてたんだって
[絵名]:
え!? でも、パスワードとかは?
まさか設定してなかったの?
[まふゆ]:
……してたけど、お母さんには教えてた
[まふゆ]:
何もなければ、勝手に見ることはしないって言われてたから。
……実際に今までも見られたことはなかった
[まふゆ]:
でも、今日は——
[まふゆ]:
……帰ってきたら、お母さんがパソコンを開いてて……
[奏]:
……どうして、そんなことしてたんだろう
[まふゆ]:
お母さんは、調べもののために使ったって
言ってた……けど……
[絵名]:
でも、ただの調べものならスマホでもできるじゃん。
なのにわざわざ、まふゆのパソコンを使うわけ?
[瑞希]:
……もしかしたら……
[瑞希]:
調べてたのは、“まふゆが何をしてたのか”じゃないかな
[絵名]:
え……?
[瑞希]:
ほら、前にシンセのことがあったでしょ?
それで……もしかしたらの話なんだけど
[瑞希]:
まふゆのお母さんは、まふゆが何か
自分が知らないことをやってるって思って……
こっそり見てみようって思ったんじゃない?
[奏・絵名]:
『…………!』
[絵名]:
そ、それで勝手にパソコン見てたってこと……!?
信じられない……!
[まふゆ]:
…………
[レン]:
まふゆちゃん……
[瑞希]:
……ねえ、まふゆ。
そのあと何か言われたりしてないの?
[まふゆ]:
……うん。ナイトコードとか、曲のデータは見つからないように
隠してあったから、多分みんなのことは気づかれてないと思う
[奏]:
そっか……。
見つかってないなら、よかった
[瑞希]:
でも、また勝手に見られるかもしれないんだよね
[瑞希]:
……あ、それならパスワードを変えるのはどう?
[まふゆ]:
急にパスワードを変えたら、
変に思われるかもしれない
[絵名]:
ていうか、見るなって言えばいいじゃん。
親だからって、勝手にパソコン見るのは絶対ないでしょ
[まふゆ]:
そう、かもしれないけど……
[まふゆ]:
でも……お母さんは、私のことが心配だから見ただけで……
[絵名]:
心配してるからって、勝手に見ていいって
ことにはならないでしょ
[絵名]:
あんただって、嫌だって思ってるんでしょ?
こういう時こそはっきり言うべきじゃないの
[まふゆ]:
……私は……
[まふゆ]:
…………
[ミク]:
まふゆ……
[瑞希]:
……言いづらいかもしれないけど、
本当に嫌なことは、はっきり言ったほうがいいと思うよ
[瑞希]:
……はっきり言うのって、難しいことなんだけどさ
[まふゆ]:
…………
[まふゆ]:
……曲
[絵名]:
え?
[まふゆ]:
……新曲のデモ、聴きたい
[絵名]:
ちょっと! 話はまだ終わってないでしょ!
[瑞希]:
……絵名
[絵名]:
…………、はあ。
わかったってば
[奏]:
……流すね
[まふゆ]:
うん
[絵名]:
(たしかに、言えないことがあるのはわかるよ)
[絵名]:
(わかる、けど——)
[絵名]:
(まふゆは、嫌だって気持ちを抑え込んで、
苦しんでるみたいに見える)
[絵名]:
(だったら……はっきり言ったほうがいいんじゃないの?)
[絵名]:
(言いたいことを言えないまま、親に従って……。
そんなんじゃ、ずっと苦しむことになるんじゃないの?)
<翌日>
<宮益坂>
[絵名]:
はあ……
[絵名]:
あれからいろいろ考えたけど……
やっぱり、いいアイディアは浮かんでこないな
[絵名]:
(本当は、画家として殻を破る自分をイメージできるのが
一番いいんだろうけど……)
[絵名]:
(このまま考えてても駄目なのかも。
もう一度、“表現したいこと”から考え直してみよう)
[絵名]:
……って、あれ?
あそこにいるのって……
[絵名]:
……まふゆ?
こんなところでどうしたの?
[まふゆ]:
絵名……
[まふゆ]:
……少し気持ち悪くなって、休んでた
[絵名]:
え、大丈夫なの?
[まふゆ]:
……大丈夫だと思う。
熱はないし、予備校の講義は受けられたから
[絵名]:
熱はない、って……。
でも、具合悪いんでしょ?
[まふゆ]:
……大丈夫
[まふゆ]:
ただ……胸の奥が、冷たくて……
[絵名]:
あ……!
[まふゆ]:
雨……
[絵名]:
最悪、今日降るって言ってなかったじゃん!
まふゆ、あんたも早く帰りなさいよ
[まふゆ]:
……うん。
もう少しだけ、休んだら……
[絵名]:
え? でも……
[絵名]:
……あーもう!
[絵名]:
まふゆ、ついてきて!
[まふゆ]:
え?
[絵名]:
早く、濡れちゃうでしょ!
これで風邪引かれたら、なんか気分悪いじゃない!
[絵名]:
ほら、早く!
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scripts/wish_2022/s_03.json
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[絵名]:
ただいまー
[母親]:
絵名、おかえりなさい。
……あら?
[まふゆ]:
えっと……突然すみません。
……宮益坂女子学園2年の、朝比奈まふゆです
[絵名]:
さっき近くで会ったんだけど、雨が降ってきたから
ちょっと雨宿りさせてあげようと思って
[母親]:
あら……!
絵名が、愛莉ちゃん以外のお友達を……!?
[まふゆ]:
え?
[絵名]:
ちょっと、何その言いかた。
普通に愛莉以外の友達はいるから
[母親]:
ふふ、そうね。まふゆちゃん、いらっしゃい。
なんのおかまいもできないけど、どうぞ上がってちょうだい
[まふゆ]:
はい、ありがとうございます。
おじゃまします
[レン]:
(……まふゆちゃん、大丈夫かな……)
<誰もいないセカイ>
[レン]:
(……まふゆちゃん、この前来た時
すごく苦しそうだったな……)
[ミク]:
……レン、まふゆのこと心配してるの?
[レン]:
……うん、まふゆちゃんは大丈夫って言ってたけど、
やっぱり気になっちゃうんだ
[レン]:
この前、お母さんのことで苦しんでたし……
[ミク]:
……心配、だね
[レン]:
……うん。ぼくが心配しても、
まふゆちゃんが苦しくなくなるわけじゃないと
思うんだけど……
[レン]:
……大丈夫、かな……
[ミク]:
……気になるのなら、見に行ってあげてもいいんじゃないかな
[レン]:
え……
[ミク]:
何もしなくても、そばにいるだけで
心があたたかくなったりするから
[ミク]:
レンがいてくれることで、
まふゆも少し楽になるかもしれない
[レン]:
……そうなの、かな……
[レン]:
じゃあ……ぼく、まふゆちゃんのところに行ってくる。
なんにもできないかもしれないけど……
[ミク]:
うん、いいと思う
[ミク]:
まふゆを、よろしくね
[レン]:
……うん!
<絵名の部屋>
[絵名]:
まさか、あんたを連れてくることになるとはね……
[絵名]:
はあ、帰ったら課題のこと考えようと思ってたのに
[まふゆ]:
……課題?
[絵名]:
そう、絵の課題。
ちょっと難しくて、悩んでるんだよね
[絵名]:
だから、ニーゴの作業までに
アイディアだけでもまとめようって思ってたんだけど
[まふゆ]:
……そう。じゃあ、帰る
[絵名]:
は?
[まふゆ]:
私がいたら、課題ができないんでしょ?
[絵名]:
それはそうだけど……別にいいってば!
ここまで連れてきた時点で仕方ないって思ってるし
[絵名]:
ていうか、あんただって帰りたくないんでしょ?
[まふゆ]:
…………
[絵名]:
ちょっと、なんとか言いなさいよ
[絵名]:
(……はあ。相変わらずなんにも言わないんだから)
[絵名]:
(……悩んでるのも、多分、親のことなんだろうけど……)
[???]:
『ま、まふゆちゃん……』
[まふゆ]:
え?
[まふゆ]:
……レン?
[絵名]:
え、どうしたの?
何かあった?
[レン]:
『え、えっと……。
この前、まふゆちゃんが苦しそうだったから、
大丈夫かなって……』
[レン]:
『でも……』
[レン]:
『この前よりは、苦しくなさそう……?』
[絵名]:
え?
[まふゆ]:
……うん。前よりは、大丈夫
[レン]:
『よかった……』
[絵名]:
それならいいけど……。
ま、せっかくだし、もう少し休んでけば?
雨も強くなってるし
[まふゆ]:
……ありがとう。でも……
[絵名]:
でも、何?
[まふゆ]:
…………帰らないと
[絵名]:
は!? だからどうしてそうなるわけ?
家に帰りたくないんじゃないの?
[まふゆ]:
……帰りたくない、というか……
[まふゆ]:
家に帰ろうとすると、少し冷たい感じがして、苦しい
[絵名]:
……それって、この前みたいなことがあるから?
[まふゆ]:
…………
[絵名]:
もう……。そういうことも、親にはっきり言えばいいじゃない
[まふゆ]:
……そんなこと言ったら、余計に心配させる
[まふゆ]:
模試に行けなかった時も、門限を破った時も
すごく心配をかけたから……
[絵名]:
……その気持ちはわからなくもないけど……
[絵名]:
あんたは、それで納得できるの?
[まふゆ]:
私は……
[まふゆ]:
……お手洗い、借りるね
[レン]:
『え、絵名ちゃん……。怒ってる?』
[絵名]:
別に、怒ってないけど……。
なんでもっと自分の思ってること
言わないんだろっていうのは思うかな
[絵名]:
……まふゆを見てると、
言いたいのに黙らせられてるって感じがするから
[レン]:
『…………』
[レン]:
『……絵名ちゃんは、強いね』
[絵名]:
え?
[レン]:
『ぼくだったら……、思ってること、
そのまま言うの怖いなって……』
[レン]:
『えっと、お父さんやお母さんみたいな——
大事な人に否定されたら、すごく苦しいから』
[絵名]:
あ……
[絵名]:
(否定、されたら……)
[父親]:
お前に、画家になれるほどの才能はない
[絵名]:
…………
[絵名]:
それは……少し、わかるかも
[絵名]:
(画家になりたいって思って絵を描き続けてきたのに、
わかってもらえなくて、否定されて——)
[絵名]:
(あの頃は、どうしようもなくつらかったな)
[絵名]:
(親と顔を合わせるのも嫌で、家の中でも
自分の部屋にしか居場所がないように思えて——)
[絵名]:
(……もしかしたら、まふゆにとってのお母さんも
そんな感じなのかな)
[絵名]:
(だから——否定されたら嫌だって思って、
言うこと聞いちゃうのかな……)
[まふゆ]:
……ただいま
[レン]:
『あっ、まふゆちゃん……!
おかえりなさい』
[絵名]:
ねえ、まふゆ——
[まふゆ]:
っ! あ……
[まふゆ]:
——お母さんだ
[絵名]:
え……
[まふゆ]:
——もしもし、お母さん?
[まふゆ]:
……えっと、今日は友達の家で勉強してて——
[まふゆ]:
……うん、お互いに小テストが近かったから。
連絡してなくてごめんね
[絵名]:
(……本当になんなの、親の顔色ばっかりうかがって)
[絵名]:
(あんたはそれでいいの!?
勉強ばっかりさせられて、好きなことは諦めさせられて、
パソコンまで勝手に見られて!)
[絵名]:
(……こんなんじゃ、ますます言いなりになって
逃げ出せなくなるじゃない)
[絵名]:
(そしたら、あんたは……あんた自身を……)
[まふゆ]:
え? 何時に帰れるか……?
[まふゆ]:
……えっと……
[絵名]:
——ちょっと貸して
[まふゆ]:
え……?
[絵名]:
はじめまして、いきなりすみません。
まふゆさんと仲良くさせてもらってる
東雲絵名と申します
[まふゆの母]:
『——東雲さん? あら、はじめまして。
ええと……まふゆと同じクラスの子かしら』
[絵名]:
いえ、私は別の高校なんですけど。
まふゆさんと勉強していたら、ちょっと遅くなっちゃって
[まふゆの母]:
『あら、そうなのね。
いつもまふゆと仲良くしてくれてありがとう』
[まふゆの母]:
『でも……』
[まふゆの母]:
『まふゆとは、どういうつながりのお友達なのかしら?』
[絵名]:
え……
[絵名]:
それは……
[まふゆの母]:
『もしかして……』
[まふゆの母]:
『——まふゆと一緒に、音楽をしている子?』
[絵名]:
……っ
[奏]:
もしかして……
まふゆ、音楽やってること話してないの?
[まふゆ]:
……うん。
お母さんは、私に勉強してほしいって思ってるから
[まふゆ]:
……それで昔、部屋に置いてたシンセを
捨てられそうになったの
[奏・絵名]:
『えっ……!?』
[瑞希]:
……ねえ、まふゆ。
そのあと何か言われたりしてないの?
[まふゆ]:
……うん。ナイトコードとか、曲のデータは見つからないように
隠してあったから、多分みんなのことは気づかれてないと思う
[奏]:
そっか……。
見つかってないなら、よかった
[絵名]:
(……まふゆの話からすると、ニーゴのことは
親には言ってないはず……)
[絵名]:
(もしかして、パソコンの時と同じで
探りを入れてるのかも)
[絵名]:
(……それなら……)
[絵名]:
音楽……ですか?
なんのことか、ちょっとわからないんですけど……
[まふゆの母]:
『あら? 音楽を教えてくれるお友達がいるって聞いていたから
私からもお礼をしたいと思っていたんだけど——』
[まふゆの母]:
『それって、あなたのことじゃなかったのかしら?』
[絵名]:
いえ……。私じゃないと思います
[まふゆの母]:
『そうなのね、早とちりしちゃったわ。ごめんなさい』
[まふゆの母]:
『ええと……それなら、どういうお友達なの?』
[まふゆ]:
……絵名……
[絵名]:
いいから、あんたは黙ってて
[絵名]:
私は……
[絵名]:
まふゆさんとは、絵がきっかけで知り合ったんです
[まふゆの母]:
『……絵? どういうことかしら』
[絵名]:
えっと……
[絵名]:
(あいつの名前を使うのはムカつくけど……)
[絵名]:
——実は、私の父の個展にまふゆさんが来てくれたことがあって。
そこから仲良くなったんですよ
[まふゆの母]:
『……個展?』
[絵名]:
ええ、東雲慎英っていうんですけど……ご存知ですか?
[まふゆの母]:
『……え? それって……シブヤ美術館で個展をやっていた
あの東雲先生かしら?』
[絵名]:
はい! 別の個展の時に手伝いをしていたら、
偶然まふゆさんが通りかかって……
[絵名]:
父の絵を気に入ってくれて、同い年ってこともあって
意気投合したんです!
[まふゆの母]:
『まあ、そうだったのね。
あの東雲先生のお嬢さんが、
まふゆとお友達になっていたなんて……』
[絵名]:
ふふ、私もまふゆさんにはお世話になってます。
今日も勉強を教えてもらっちゃいましたし……
[絵名]:
あ、それで——
一応まふゆさんのお母さんにもお願いがあるんですけど……
[まふゆの母]:
『お願い? 何かしら』
[絵名]:
まふゆさんに、絵のモデルになってもらえないかと
思いまして
[まふゆ]:
……!
[まふゆの母]:
『絵のモデル……?』
[絵名]:
はい。父の影響ではないんですけど……
私も絵を描いていまして
[絵名]:
今回出された絵の課題が、まふゆさんにぴったりなんです。
だから、ぜひモデルを頼みたいんですけど……
[まふゆの母]:
『まあ、素敵じゃない。
あの東雲先生のお嬢さんに描いてもらえるなんて、
まふゆはとても恵まれているわね』
[絵名]:
ありがとうございます!
それで、課題を今日中に仕上げなきゃいけないので、
今夜まふゆさんをうちに泊めさせてもらいたいなって
[まふゆの母]:
『今夜……? まあ、急ね』
[まふゆの母]:
『まふゆは今、受験勉強で忙しいから、
できれば夜は勉強に集中してほしいんだけど……』
[絵名]:
…………
[まふゆの母]:
『……けれど、1日ならリフレッシュもかねて
お友達の家にお泊りするのもいいかもしれないわね』
[まふゆの母]:
『東雲さん、まふゆのことをよろしくね』
[絵名]:
……はい、ありがとうございます!
[まふゆの母]:
『それじゃあ、まふゆにかわってもらえるかしら』
[絵名]:
……わかりました。
まふゆ、お母さんが呼んでるよ
[まふゆ]:
あ……。う、うん
[まふゆ]:
お母さん、急にごめんね
[まふゆ]:
……うん、わかった。迷惑かけないようにするよ。
それに勉強も。今日の分はちゃんと進めておくから
[まふゆ]:
……うん、うん。ありがとう。
じゃあ、また明日
[まふゆ]:
……おやすみなさい
[絵名]:
——はあ、つっかれた……
[まふゆ]:
絵名……
[絵名]:
これで帰らなくてもいいでしょ?
[まふゆ]:
……ありがとう
[まふゆ]:
でも、絵のモデルって?
[絵名]:
ああ……。あれは咄嗟に出た嘘っていうか……
[絵名]:
まあ、本気でやらせようなんて思ってないから安心して
[まふゆ]:
そう……わかった
[絵名]:
(けど、今日は課題できなそうだな……。
まふゆのこともあるし、しょうがないんだけど)
[絵名]:
(時間見て、アイディアだけでも出しておこうかな)
[絵名]:
じゃ、うちのお母さんにも事情を説明してこよっかな。
晩ご飯の準備もあるだろうし
[まふゆ]:
……私も行く。
泊めてもらうなら、改めて挨拶しないと
[絵名]:
そう? 別に気にしなくてもいいけど……。
じゃあ一緒に行こっか
[まふゆ]:
……うん
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[絵名]:
パジャマはこれ使って。
普段使ってないやつだから、比較的綺麗だし
[まふゆ]:
……ありがとう
[母親の声]:
絵名~! そろそろ夕飯よ!
[絵名]:
はーい!
行くよ、まふゆ
[まふゆ]:
……うん
<東雲家 リビング>
[絵名]:
はー、お腹すいた。
お母さん、今日のごはんって——
[彰人]:
ただいま
[絵名]:
あ、彰人。おかえり
[彰人]:
……げ
[絵名]:
は? おかえりって言ってんのに、何その態度。
ていうか、なんか目泳いでるし……怪しくない?
[絵名]:
……あ! 手に持ってるのって、もしかして
駅前に新しくできたパンケーキ屋さんの……!?
[彰人]:
あー……。めんどくせえのに見つかったな
[絵名]:
ねえ! ちゃんと私の分も買ってきてるよね!?
[彰人]:
買ってきてるわけねえだろ。
なんでオレが毎回お前の分も買わなきゃならねえんだよ
[絵名]:
はあ? 家に同じものが好きな人間がいるって
わかってるんだから、そこは気をつかうべきでしょ
[絵名]:
あ……でも、今日食べるのならまふゆの分もないと駄目か
[彰人]:
は……?
[まふゆ]:
おじゃましてます。
えっと……彰人くん、だったかな
[彰人]:
あ……どうも。
すみません、変なところ見せてしまって
[まふゆ]:
いえ、私も急にごめんなさい。
今日はいろいろあって、泊まらせてもらうことになったんです
[彰人]:
ああ、そうだったんですか。
狭い家ですけど、ゆっくりくつろいでいってください
[絵名]:
(まったく、ふたりして外面だけはいいんだから……)
[母親]:
ほら、ごはん冷めちゃうわよ。
みんな座って~!
[絵名]:
はーい
[母親]:
さあ、まふゆちゃんも食べてちょうだいね
[まふゆ]:
ありがとうございます
[まふゆ]:
……でも、すみません。
突然、泊まることになってしまった上に
晩ごはんまでいただいて……
[絵名]:
別にそんなこと気にしなくていいってば
[絵名]:
あ、今日ハンバーグ?
いいじゃん、美味しそう!
[絵名]:
……って、お母さん!
にんじんのグラッセいらないってば!
[母親]:
もう、わがまま言わないで食べなさい
[母親]:
でも、まふゆちゃんも絵名の言うとおり、
遠慮なんかしなくていいからね
[母親]:
それより、苦手なものとかなかったかしら
[まふゆ]:
はい、どれもとっても美味しそうです
[絵名]:
あ、じゃあこのグラッセ食べない?
[彰人]:
嫌いなもの押し付けられたら、
朝比奈さんも迷惑じゃないかな
[絵名]:
嫌いな人が食べるよりも、
好きな人が食べるほうがいいでしょ
[彰人]:
これくらい好き嫌いしないで食えって言ってんだよ
[彰人]:
朝比奈さんも断っていいですからね
[まふゆ]:
ふふ、ありがとう
[絵名]:
うわ、何それ。
自分だって嫌いなものは食べないくせに……
[絵名]:
あ、もしかして食べたかった?
それじゃ私の食べていいからねー
[彰人]:
ちょっ……やめろって
[絵名]:
好き嫌いしないで食べなさいねー
[彰人]:
だから、自分で食えって言ってるだろ
[母親]:
ふたりとも、いい加減にしなさい。
ハンバーグが冷めちゃうでしょ!
[彰人・絵名]:
『はーい』
[絵名]:
じゃ、いただきまーす
[母親]:
まふゆちゃんも遠慮せず、好きなだけ食べてちょうだいね
[まふゆ]:
ありがとうございます。
ハンバーグ、とっても美味しいですね
[絵名]:
(美味しいって、味もわかんないくせに。
……うちの親相手に優等生ぶらなくていいのに)
[彰人]:
そういえば、ハンバーグって久々だな
[母親]:
そりゃ、せっかく絵名のお友達が来たんだもの。
どうせなら喜んでもらいたいじゃない?
張り切って作っちゃった
[まふゆ]:
突然お邪魔してしまったのに、ありがとうございます。
ハンバーグは好きなので嬉しいです
[母親]:
ふふ、よかったわ。
そういえば、ふたりとも学校は違うみたいだけど……
どんなお友達なの?
[彰人]:
たしか、音楽サークルで一緒に
曲作ってるとかじゃなかったですっけ
[まふゆ]:
あ、えっと……
[絵名]:
そうだけど……。それ、よそでは黙っててよね。
まふゆの親、ちょっとうるさいから
[母親]:
あら、そうなの?
曲を作ってるなんて、とても素敵じゃない
[まふゆ]:
その、勉強をしなければいけないので……
[母親]:
ああ、もうちょっとしたら受験生だものね。
たしかにお母さんの気持ちもわかるわ
[母親]:
でも、息抜きくらいならいいんじゃない?
……なんて言ったら、まふゆちゃんのお母さんに
怒られちゃうかしら
[母親]:
まあ、絵名はやりたいことをやってても、
いつもイライラしてるから心配だけどね
[絵名]:
う……
[まふゆ]:
(……心配……)
[まふゆ]:
(——やっぱり、そうなんだ)
[母親]:
でも、私が言ったところでこの子の意志は変わらないし。
絵名には絵名の人生があるから、好きにやるのが一番よ
[まふゆ]:
え……
[まふゆ]:
(好きに、やるのが一番……?
でも——)
[まふゆの母]:
——ううん、いいのよ。
お母さんも、まふゆが本当にやりたいことなら応援するつもりよ
[まふゆの母]:
心配だから、つい口うるさくなっちゃったけれど、
これはまふゆの人生だもの
[まふゆの母]:
だから——まふゆがしたいようにしていいわ
[まふゆ]:
(なんだか——お母さんとは、違う)
[まふゆ]:
(どうして……?)
[絵名]:
ま、私は誰がなんて言っても
好きにやらせてもらうつもりだから
[母親]:
はいはい、わかってるわよ。
でも、少しくらいは勉強しなさいね?
[彰人]:
そうそう。朝比奈さんを見習ってな
[絵名]:
もう、うるっさい!
ていうか、彰人だって赤点ギリギリなんだから
人のこと言えないでしょ
[彰人]:
赤点は回避してんだからいいだろ。
こっちはお前と違って、テスト前にチームの連中と
勉強してるからな
[母親]:
本当は平均点を目指してほしいんだけど?
[彰人]:
う……。
ま、まあ……練習が早く終わる日があったら……
[まふゆ]:
…………
[まふゆ]:
(やっぱり……)
[まふゆ]:
(なんだか、私の家と違う……)
[まふゆ]:
(私の家でも、夕飯の時は家族で話すし——
うちのほうが喧嘩もあんまりしないし、穏やかなのに)
[まふゆ]:
(絵名の家は、喧嘩してても冷たい感じがしない……)
[母親]:
まふゆちゃん、ごめんなさいね。
せっかく遊びに来てくれたのに、こんな話聞かせちゃって
[まふゆ]:
あ……いえ、大丈夫です。
私も家ではよく受験勉強の話をするので
[母親]:
そうなの? 偉いわねえ。
もしよければ、絵名達にも教えてもらえないかしら
[まふゆ]:
ええ、もちろんいいですよ。
絵名も彰人くんも、私でよければいつでも教えるから言ってね
[彰人]:
あ……。
ありがとうございます……
[絵名]:
私はいい。まふゆから教わるなんて絶対に嫌だし
[彰人]:
朝比奈さんだって、お前に教えるのは苦労するから
嫌だろうよ
[絵名]:
は!? あんたと一緒にしないでくれる?
私は勉強すればできるんだから
[絵名]:
ほら彰人、だーい好きなにんじん
食べてないじゃん
[絵名]:
まだこっちにあるからあげるねー
[彰人]:
だからいらねえっつってんだろうが
[まふゆ]:
(……なんだろう……)
[まふゆ]:
(ここにいると、胸が軽くなる……)
[まふゆ]:
(私の家と変わらないはずなのに、何か違う——)
[まふゆ]:
(でも、何が違うんだろう……)
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[絵名]:
はー、お腹いっぱい……
[彰人]:
結局、にんじん全部押しつけてきやがって……
[母親]:
ふたりとも、お客さんの前なんだから
もう少し静かにケンカしなさい
[母親]:
ごめんなさいね、まふゆちゃん。
せっかく来てくれたのに、こんな感じで
[まふゆ]:
いえ、賑やかで楽しいです。
うちはきょうだいがいないので
[絵名]:
たしかに、ひとりだとこういうケンカすることもないよね。
あーあ、私もひとりっこがよかったな~
[彰人]:
そりゃこっちのセリフだけどな
[母親]:
あ、そういえば……お客さん用のお布団、
クリーニングに出してたかしら。
押し入れにはあると思うんだけど……
[絵名]:
あ、たしかに。
愛莉が泊まりに来たの、結構前だったし
枕とかぺちゃんこになってるかもね
[まふゆ]:
あ、私は全然大丈夫ですので。
お気づかいなく
[絵名]:
枕気にしないって、神経図太すぎない?
私だったら絶対無理
[母親]:
こら、気をつかってくれてるのよ。
まふゆちゃん、ありがとうね
[母親]:
そうだ。そろそろお風呂がわくから、先に入ってきたら?
そのあいだに、お布団の準備もしておくわ
[まふゆ]:
あ……ありがとうございます。
でも、皆さんより先にいただくのは……
[彰人]:
気にしなくていいっすよ。
数少ない絵名の友達なんですから
[彰人]:
つーか、絵名が先に入ると
いつ上がってくるかわかんねえし。
今入っといたほうがいいと思います
[絵名]:
そんなに長くないってば!
ったく、変なこと吹き込まないでよね
[まふゆ]:
ふふ。それじゃあ、先にいただきます
[絵名]:
あっ! 手前にあるシャンプーは
私のだから使わないでよ。
奥にあるお母さんのやつ使って!
[彰人]:
シャンプーぐらい貸してやれよ……
[絵名]:
高いやつなの!
[まふゆ]:
ふふ、奥のやつだね。わかった。
じゃあ、行ってくるね
[彰人]:
……本当、なんであんな人がお前と仲良くしてんだ?
[絵名]:
だから、普段は私が面倒見てあげてるんだってば!
[彰人]:
は? どう考えてもありえねえだろ
<絵名の部屋>
[絵名]:
ったく……。彰人ってば、まふゆのこと
よく知らないから、あれこれ言っちゃって
[絵名]:
(まあ……あの優等生顔してるまふゆに
本当は裏があるなんて、言っても信じないと思うけど)
[レン]:
『え、えっと……絵名ちゃん』
[絵名]:
あ、レン。ごめんね、来てくれてたのに
[絵名]:
まふゆは今、お風呂入ってるから
もう少しで帰ってくると思うよ
[レン]:
『そうなんだ……。
えっと、まふゆちゃんの様子……どうだった?』
[絵名]:
ん? んー、相変わらずよくわかんないけど……。
まあ、いつもどおりなんじゃない?
[レン]:
『そっか……。よかった』
[絵名]:
さて、と……。
まふゆが上がってくるまで、
課題のアイディアだけでも考えておこうかな……
[レン]:
『課題……?』
[絵名]:
絵の課題をどうするか考えてるの。
ちょっと難しくてさ
[レン]:
『絵……』
[レン]:
『絵名ちゃんが描いた絵、見たいな……』
[レン]:
『あ、ご、ごめんなさい。
課題……やるんだよね……』
[絵名]:
まあ、まだアイディア浮かんでないし、
ちょっとくらいならいいよ
[絵名]:
んー、大したもの描いてないけど……。
あ、スケブに描いてあるのなら見せられるかも
[絵名]:
えっと……写生で描いた花壇の花でしょ。
こっちは、子供の頃見たオオカミを思い出して描いたやつ。
これは、ニーゴのラフで悩んだ時にいろいろ描いたのかな
[レン]:
『わ……いっぱいある……!
絵名ちゃん、上手だね』
[絵名]:
え? それほどでもないけど……
[レン]:
『他にはどんなのがあるの?
もっと見たいな……』
[絵名]:
じゃあ、そうだな……
[絵名]:
これは友達を描いた絵。今はアイドルをやってるんだけど、
すっごく明るくて可愛い、いい子なんだよね
[絵名]:
あ、奏達を描いたやつもあったな
[レン]:
『わ……。ミクもいる……!
とっても優しい顔してるね』
[レン]:
『絵名ちゃん、ありがとう。どれもすごく上手だけど、
みんなを描いた絵が一番素敵だね……』
[絵名]:
ふふ、ありがと
[絵名]:
そうだ、よかったらレンも描いてあげよっか
[レン]:
『え? ぼ、ぼくは……ちょっと恥ずかしいな。
描かれてるって思うと、ソワソワしちゃいそうだし……』
[レン]:
『あ、まふゆちゃんは……?』
[絵名]:
え、まふゆ?
[レン]:
『う、うん。まふゆちゃんは落ち着いてるし……
ぼくよりも、描きやすいんじゃないかなって』
[絵名]:
たしかに、ソワソワはしなさそうだけど
[絵名]:
でも、まふゆをモデルに、か……
[まふゆ]:
——絵名、お風呂あいたよ
[まふゆ]:
……? どうしたの
[絵名]:
んー……。ま、絵の練習にはなるかもね
[絵名]:
まふゆ、今からデッサンさせてよ
[まふゆ]:
え……どうして?
[レン]:
『あ、ぼくが描いてほしいってお願いしたんだ。
えっと……絵名ちゃんが描いたまふゆちゃんが見たくて』
[まふゆ]:
私を……?
[レン]:
『うん。駄目、かな……?』
[まふゆ]:
…………
[まふゆ]:
…………いいけど
[絵名]:
じゃ、決まりね。
私もお風呂入ってくるから、上がったらすぐにやろ
[まふゆ]:
……うん、わかった
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<絵名の部屋>
[レン]:
『わあ……。こうやって描いてくんだね。
すごいなあ……』
[まふゆ]:
……絵名、私はどんな顔をすればいいの?
[絵名]:
別にいつもと同じでいいよ
[まふゆ]:
わかった
[絵名]:
(まさか、本当にまふゆをモデルに描くことになるなんてね。
それにしても……)
[絵名]:
(ほんと、表情ないな……。石膏像描いてるみたい)
[レン]:
『……絵名ちゃん、本当に絵が上手……』
[レン]:
『こんなにうまいのに、まだ頑張ってるなんて
すごいなあ……』
[絵名]:
すごくなんてないけどね
[絵名]:
私はただ、もっとうまくなりたいだけ
[絵名]:
まあ、描いても描いてもボロボロに言われるし
悩むことばっかで、毎日キツいけど
[レン]:
『絵名ちゃん……』
[絵名]:
でも、これが私のやりたいことだし、
自分で決めたことだから
[絵名]:
誰になんて言われてもやめるつもりはないし、
やり続けるつもり
[まふゆ]:
…………
[絵名]:
まあ、やりたいことやってるせいで、
お母さんには心配かけてるかもしれないけどさ
[絵名]:
こうやって絵を描いてる自分が、
一番自分らしいって思うんだ
[まふゆ]:
……自分、らしい……
[絵名]:
そう。だからあんたも、ちゃんと言ってみたら?
自分がやりたいこと
[絵名]:
シンセのことだって——
[まふゆ]:
……私も、やりたいって言った
[絵名]:
え……
[まふゆ]:
勉強もやらなきゃいけないけど、
音楽も……やりたいって
[絵名]:
え、そうだったの!?
[絵名]:
(まふゆ……ちゃんと言ってたんだ……)
[まふゆ]:
お母さんも……やりたいことをしなさいって、言ってくれた
[絵名]:
本当? じゃあ——
[まふゆ]:
でも——後悔しないように、って……
[絵名]:
——え?
[まふゆ]:
将来、後悔しないように考えたほうがいいって
……言われたの
[絵名]:
……は? 何それ。
音楽続けたら後悔するってこと?
[まふゆ]:
……そういうことじゃないと思う、けど……
[まふゆ]:
きっと、お母さんは……私の将来を心配してるんだと、思う
[まふゆ]:
医者になればたくさんの人を助けられる。
それに、経済的にも困ることはないし……
[絵名]:
それは……たしかにそうかもしれないけど……
[まふゆ]:
今、勉強を疎かにして受験に失敗したら
大変なことになるって……お母さんはわかってるから
[まふゆ]:
だから——
[まふゆ]:
だから……私は……
[まふゆ]:
…………音楽を、やめるって、言った
[絵名]:
…………!
[絵名]:
は!? あんた、そんなこと言ったの!?
[まふゆ]:
……うん
[絵名]:
本当に——それでいいと思ってんの?
あんた自身、納得してるの?
[まふゆ]:
…………
[まふゆ]:
——今は我慢して、受験勉強をして……
大学生になれば、また……音楽ができるかもしれない
[まふゆ]:
……だから……今は……
[絵名]:
でも……あんた、結局私達と一緒にやってるじゃない
[まふゆ]:
……どうしてなのか、自分でもわからない
[まふゆ]:
……前、絵名に『本当にお母さんが正しいと
思ってるなら、セカイに来てない』って言われて……
[まふゆ]:
たしかに、そうだと思った
[まふゆ]:
……どうして私は、お母さんがいいって言ってることと
逆のことをしてるんだろうって——思ったの
[絵名]:
……だからそれは、あんたが“そうしたい”って
思ってるからでしょ?
[絵名]:
音楽をやりたい、セカイに行きたい。その気持ちは、
親に何言われても譲りたくないって思ってるから
ニーゴの活動をするんでしょ?
[絵名]:
それは当たり前のことじゃない
[まふゆ]:
当たり前……?
[絵名]:
そう
[絵名]:
私は——描きたいから描く。
その先に私の幸せがあるって、信じたいから
[絵名]:
……あんただって、親が決めた幸せじゃなくて
自分自身の幸せがあるって、どっかで思ってるんじゃないの?
[まふゆ]:
……私自身の……
[まふゆ]:
でも、私は——
[レン]:
『まふゆ、ちゃん……』
[絵名]:
(……わかんないな……)
[絵名]:
(親が大事なのはわかるけど……。
どうして、自分がやりたいことに向き合えないんだろ)
[絵名]:
(話を聞いてても、まふゆ自身にはちゃんと
やりたいことがあるってわかるのに)
[絵名]:
(……でも、もし私がまふゆと同じ立場だったら
——違ってたのかな)
[絵名]:
(普段から『あなたのために』って言われて、
親の考えを押し付けられてたら——)
[絵名]:
(私も、まふゆみたいに……なってたのかな)
[絵名]:
——まふゆは、どうしたいの?
親のこととか関係なく
[まふゆ]:
…………わからない
[まふゆ]:
……でも、みんなと一緒に……曲を作りたい
[絵名]:
……まふゆ……
[絵名]:
……そっか
[絵名]:
——じゃあ、私も手伝う。
ニーゴの仲間として
[絵名]:
まあでも、あんたは自分らしくやれって言っても
『はいやります』って感じにはならないだろうし
[絵名]:
……まずは練習として、今日くらいは
思いっきりやりたいことやれば?
[まふゆ]:
え……
[絵名]:
あっ、てかもう25時じゃん!
絵描いてて忘れてた……。作業しなきゃ!
[まふゆ]:
作業……?
[絵名]:
ニーゴの! あんたもやるでしょ?
[まふゆ]:
……して、いいの?
[絵名]:
は? 当然じゃない。
奏は曲仕上げてきてるだろうし、
まふゆの歌詞がないと、私も瑞希も困るんだからね
[絵名]:
ナイトコード、つなげるよ
[まふゆ]:
…………うん
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scripts/wish_2022/s_07.json
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<絵名の部屋>
[瑞希]:
『えっ! なんで、えななんのところに雪がいるの!?』
[絵名]:
まあ、なんていうか……
[まふゆ]:
……帰り道に休んでたら、雨が降ってきて……
えななんが“家に来い”って言ってくれたの
[まふゆ]:
でも、お母さんから電話がかかってきて、
帰ってきなさいって……
[まふゆ]:
そうしたら、えななんが電話をかわって、
家に泊めさせてほしいって、お母さんに言ってくれた
[瑞希]:
『えっ、えななんが!?』
[絵名]:
しょうがないでしょ。
あの時の雪、見てられなかったんだから
[レン]:
『あ、あのね。絵名ちゃん、すっごくかっこよかったんだよ』
[奏]:
『え?』
[レン]:
『まふゆちゃんが“帰る”って話してる時に、
バッてスマホを取って……。まふゆちゃんのお母さんと
堂々と話してたんだ』
[瑞希]:
『へえ……そうだったんだ。
えななん、すごいじゃん!』
[絵名]:
別に、大したことじゃないってば。
ほっとけなかっただけだし
[瑞希]:
『ねえねえ、雪!
えななんの家はどんな感じなの?』
[絵名]:
ちょっと、何聞き出そうとしてんの?
[まふゆ]:
えななんの家……
[まふゆ]:
えななんの部屋は散らかってる
[絵名]:
は!? 十分綺麗でしょ!
[まふゆ]:
綺麗……?
服とか、画材があちこちに転がってるけど
[瑞希]:
『あははは! なんか想像できるな~』
[奏]:
『……でも、きっとわたしの部屋よりも
片づいてると思う』
[まふゆ]:
うん。Kも、もう少し片づけたほうがいいと思う
[奏]:
『そ、そうだよね……』
[瑞希]:
『それでそれで? 他には?』
[まふゆ]:
…………
[まふゆ]:
私の家とは、なんだか違った。
何が違うのかは、はっきりわからないけど……
[瑞希]:
『まあ、たしかに違いそうだよね~。
すっごい賑やかそうっていうか』
[奏]:
『えななんのお母さんも、
なんとなく元気そうなイメージがあるね』
[瑞希]:
『わかるわかる!
あ、弟くんには会った?』
[まふゆ]:
……うん、えななんがにんじんを押し付けて
ケンカしてた
[絵名]:
ちょっと、そんなこと言わなくてもいいでしょ!?
[瑞希]:
『あはは! 相変わらずだな~』
[絵名]:
あいつだってにんじん嫌いなくせに、
好き嫌いするなとかうるさいんだもん
[瑞希]:
『あー、すっごく想像つく!
いいな~ボクもその場にいたかったー』
[絵名]:
Amiaは絶対煽ってくるから駄目
[奏]:
『ふふっ……』
[まふゆ]:
……そろそろ、作業始める?
[瑞希]:
『あはは、そうだね!
ついいろいろ聞いちゃったな~♪』
[奏]:
『あ……この前聴いてもらったデモ、
詰めてきたから共有するね。何かあったら言ってほしい』
[絵名]:
ありがと、K。
早速聴いてみるね
[まふゆ]:
…………
[まふゆ]:
……この音なら……
[瑞希]:
『え、もしかしてもう書いてるの? 早くない?』
[まふゆ]:
うん、ある程度イメージはできてたから
[絵名]:
へえ、どんな感じにするの?
[まふゆ]:
どんな、感じ……
[まふゆ]:
……うまく口には出せない。
だから、書いてみる
[絵名]:
ふうん……。
ちょっと書いたら見せてよ。
絵のラフにも影響ありそうだし
[まふゆ]:
別にいいけど……。
えななんはどんな絵を描こうと思ってるの
[絵名]:
んー……。今回はイントロが重いけど、
ラストに向かって光が見える感じがするから
もがきながら這い上がるイメージにしよっかなって
[まふゆ]:
…………
[絵名]:
だから、サビあたりはこういう絵にするつもり
[絵名]:
どう?
[まふゆ]:
……何がどうなってるのかわからない
[絵名]:
今、簡単に描いただけだから!!
これが人で、上に向かってもがいてる感じ
[まふゆ]:
…………
[まふゆ]:
……光が見える感じがあるのはわかるけど、
這い上がるよりは、解放されるほうがイメージに合ってる
[絵名]:
解放される……?
[まふゆ]:
うん、足が重くて動けないけど
最後は軽くなるようなイメージ
[絵名]:
それって、解放されたあとはどうなるの?
[まふゆ]:
…………わからない
[まふゆ]:
わからない、けど……。
自由になったのなら、自分の足で歩いていく気がする
[絵名]:
自分の足で、ね……
[絵名]:
……じゃあ、こういうのは?
ツタとかが巻き付いてる感じにするの
[まふゆ]:
…………ツタ?
紐に見えるけど
[絵名]:
だから、ラフだからだってば!
あとでちゃんと清書するから、今は心の目で見て!
[奏]:
『……なんだか、いつもよりも楽しそうだね』
[瑞希]:
『だね! 仲良くなってるって感じ!
お泊り効果かな?』
[絵名]:
はあ? いつもと変わんないでしょ
[レン]:
『ぼくも……まふゆちゃん、いつもより
楽しそうだなって思う』
[レン]:
『きっと、絵名ちゃんのおかげだね』
[絵名]:
私は別に何もしてないけど……
[絵名]:
(……楽しそう、か)
[絵名]:
(……あ、すっごく真剣に書いてる)
[絵名]:
(……まあ、たしかに夢中でやってるって感じはするかな。
さっきは、あんなにお母さんのことで悩んでたのに)
[まふゆ]:
……軽くだけど1サビ後まで書いてみた。
見てみてくれる?
[奏]:
『うん、わかった。データ送って』
[瑞希]:
『へ~、こうなったんだ!
いいじゃん、もう1回曲のほう聴いてみよっと♪』
[絵名]:
なるほどね、解放されるってこういうイメージか
[絵名]:
……ちょっとわかったかも。
私もラフ直してみる
[まふゆ]:
……じゃあ、私は続きを書くね
[奏]:
『ふたりともありがとう。よろしく』
[まふゆ]:
……うん
[絵名]:
(ほんと、すごい集中して書いてるな……)
[絵名]:
(あの歌詞も、奏の曲を聴いて
自分で感じ取ったイメージをちゃんと表現しようとしてる)
[絵名]:
…………
[絵名]:
(——音楽をやりたいって親に言ったって聞いたけど、
あんだけ親に何も言えないまふゆが『やりたい』って言うなんて、
相当勇気出したんだろうな)
[まふゆ]:
……どうしたの?
[絵名]:
別に。あんたにとって、
曲作りって大事なんだなって思っただけ
[まふゆ]:
……大事……
[まふゆ]:
…………
[まふゆ]:
わからない、けど……
[まふゆ]:
今は、みんなと曲を作りたい、と思う
[絵名]:
え……今の、顔……
[瑞希]:
『えななん、どうしたの?』
[絵名]:
なんでもない。なんでもない、けど……
[絵名]:
ああもう、スケブどこやったっけ……
[まふゆ]:
……スケッチブックなら、カバンのところにあったけど
[絵名]:
あ、ありがと!
[まふゆ]:
何かするの?
[絵名]:
あーうん。でもあんたはそのまま作業してていいから
[まふゆ]:
……? わかった
[絵名]:
(今の顔……。
さっきの石膏像みたいな顔とは全然違った)
[絵名]:
(まふゆの想い——意志が、ちょっとだけ見えた気がする)
[絵名]:
(やりたいことを真剣にやろうっていう、そんな表情)
[絵名]:
(……まふゆって、こういう顔するんだ。
何をしてもつまんなそうにしてると思ってたのに)
[絵名]:
(やっぱり——さっきの……
“みんなと曲を作りたい”っていうのが関係してるのかな)
[絵名]:
(誰に言われたからじゃない。
まふゆ自身がやりたいって思ったことだから……)
[絵名]:
(だったら——)
[絵名]:
……できた
[瑞希]:
『え、できたって何が? もしかしてラフ!?』
[絵名]:
違う違う、まふゆを描いてたの
[まふゆ]:
え……?
[絵名]:
ほら、見てみて
[レン]:
『わあ……!』
[レン]:
『まふゆちゃんの顔、すっごくかっこいいね……!』
[まふゆ]:
…………
[絵名]:
どう? まふゆ
[まふゆ]:
……絵名には、私がこう見えるんだね
[まふゆ]:
なんだか……変な感じがする
[まふゆ]:
でも——どうしてこう見えるの?
[絵名]:
え?
[まふゆ]:
どうして絵名には、私がこんな風に見えたの?
[絵名]:
どうしてって……。
まふゆの意志が、ちょっと見えた気がするっていうか……
[まふゆ]:
意志って何? どういうこと?
[絵名]:
いや、だから……やりたいことをやろうって気持ち!
[絵名]:
ていうか、合ってるかわかんないんだからね!
私がそう見えたってだけで!
[まふゆ]:
……そうなんだ……
[絵名]:
ほら、もういいから作業続けよ!
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<絵名の部屋>
[レン]:
『すう……すう……』
[絵名]:
あ……もう朝じゃん。
どうりで眠いと思った……
[まふゆ]:
……本当だ。
カーテン開けてくる
[絵名]:
あ、ちょっ……!
まぶしいからいいってば!
[まふゆ]:
日光を浴びたほうが、目が覚めるよ
[レン]:
『ん……。もう、朝……?』
[絵名]:
あーもう、レンも起きちゃったでしょ。
せっかく気持ちよさそうに寝てたのに
[瑞希]:
『おはよー、レン!』
[レン]:
『ん、おはよ……』
[瑞希]:
『でも、今日はなんか楽しかったよね。
作業もすっごく捗っちゃった!』
[奏]:
『わたしも……。
雪が楽しそうで、嬉しかった』
[瑞希]:
『雪、最近忙しくて
あんまりログインできてなかったしね』
[瑞希]:
『やっぱり、朝まで一緒にやれると嬉しいな~!』
[まふゆ]:
…………
[まふゆ]:
私も、こんな時間まで作業できたの……久しぶりだった
[まふゆ]:
きっと——家だと、こんなに打ち込めなかったと思う。
だから……ありがとう、えななん
[絵名]:
へっ? あー、うん。
まあ、ちょっとひと息つけたならよかったんじゃない?
[瑞希]:
『じゃ、そろそろボクは寝よっかな~。
作業もキリがいいとこまでいったし』
[奏]:
『わたしも、少し仮眠してから最終調整をしようと思う』
[絵名]:
ん、わかった。
みんな、おやすみー
[瑞希・奏]:
『おやすみ~!』
『おやすみ』
[絵名]:
——よし。じゃあ、私も少しだけ課題やろっかな
[まふゆ]:
……課題?
[絵名]:
うん、絵の課題。
今なら、ちょっとだけ描けそうな気がするの
[絵名]:
あんたのおかげでね
[まふゆ]:
……?
私は何もしてないけど
[絵名]:
まあ、わかんなくてもいいから。
とにかく、ありがと
[まふゆ]:
……うん
[レン]:
『頑張ってね、絵名ちゃん』
[まふゆ]:
じゃあ、私は帰る。
今日は昼から予備校があるから、
早く帰って支度しないといけないし
[絵名]:
え、ほんと?
少し寝たほうがいいんじゃない?
[まふゆ]:
……もう大丈夫
[絵名]:
……そっか
[レン]:
『じゃあ、ぼくもそろそろ帰ろうかな……』
[レン]:
『絵名ちゃん、まふゆちゃん、頑張ってね』
[まふゆ]:
うん。……レン、ありがとう
[絵名]:
おやすみ
[絵名]:
レンも、安心したみたいでよかった
[絵名]:
昨日はまふゆを描いた絵にも喜んでくれたし——
あ、そうだ
[絵名]:
……はい、これ。お礼にあげる。
さっき描いたあんたの顔、すごくよかったから
[まふゆ]:
あ……
[まふゆ]:
……うん、ありがとう
[まふゆ]:
じゃあ、また。
——ナイトコードで
[絵名]:
さて、と……やろうかな
[絵名]:
(——今まで、自分が『孵化』ってテーマで
表現したいことはなんなのか、わからなかった)
[絵名]:
(でも、今なら……わかる気がする)
[絵名]:
そう……。だからあんたも、ちゃんと言ってみたら?
自分がやりたいこと
[絵名]:
シンセのことだって——
[まふゆ]:
……私も、やりたいって言った
[絵名]:
え……
[まふゆ]:
勉強もやらなきゃいけないけど、
音楽も……やりたいって
[まふゆ]:
今、勉強を疎かにして受験に失敗したら
大変なことになるって……お母さんはわかってるから
[まふゆ]:
だから——
[まふゆ]:
だから……私は……
[絵名]:
別に。あんたにとって、
曲作りって大事なんだなって思っただけ
[まふゆ]:
……大事……
[まふゆ]:
…………
[まふゆ]:
わからない、けど……
[まふゆ]:
今は、みんなと曲を作りたい、と思う
[絵名]:
(今はまだ——殻に閉じ込められて、
手も足も出ないのかもしれない)
[絵名]:
(でも……)
[絵名]:
(いつか……いつか、あんたの力で、それを破ってほしい)
[絵名]:
(自分の意志を表現して、貫いて——
まふゆが、広い世界に孵化できるように)
[絵名]:
(それで……)
[絵名]:
——もっと自由に、まふゆらしく過ごせるといいな
<後日>
<絵画教室>
[雪平]:
——なるほど。
これが東雲さんの伝えたい“孵化”ですか
[絵名]:
……はい。どう、でしょうか
[雪平]:
……、そうですね
[雪平]:
まず、背景の塗りかたが甘いですね。
夜から朝に移り変わる空を印象的に描きたい
という意図は感じ取れますが、色が混ざり合いムラに見えます
[雪平]:
人物は体のバランス、関節部分のつながりが描けていません。
動きが硬く見えてしまい、何をしているポーズなのかが
伝わってきません
[絵名]:
…………はい
[雪平]:
しかし、瞳はよく描けています。
空を睨む力強さから、『殻を破り、羽ばたいていきたい』
とする意志——
[雪平]:
そして、そう願う描き手の想いも感じ取れました
[絵名]:
…………!
[絵名]:
あ、ありがとうございます
[絵名]:
(伝わった……! 私の伝えたかったこと、
何も言ってないのに……)
[雪平]:
今回の課題は、時間内に描けていれば及第点だったでしょう。
東雲さん、お疲れさまでした
[雪平]:
次回は、先程話した課題点をクリアできるよう
頑張ってください
[絵名]:
あ、はい……!
先生、ありがとうございました!
[絵名]:
(よかった……。
一番表現したいことを、伝えられて……)
[絵名]:
(それに——まふゆのおかげで、知れたこともあったし。
あいつは全然意識してないだろうけど)
[絵名]:
(……でも、まだ周りに比べたら全然駄目だ。
次に向けて練習しなきゃ)
[絵名]:
(いつか、もっとうまくなって——
奏達の曲をちゃんと表現できるように)
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