薄手のカーテン越しに差し込む午後の陽光が、妙に生暖かく部屋を満たしていた。俺、木崎颯太(きざき そうた)が暮らす狭いワンルームは、エアコンを軽く回したところで気だるい空気感を拭いきれない。夏休み真っ只中ということもあり、普段なら一人でゴロゴロとスマホを弄りながら過ごすこの時間帯。だが今日は違う。幼馴染の三浦さやか(みうら さやか)が、ちょっと変わった「実験」に付き合ってほしいと訪ねてきているからだ。
床に座り込んでいる彼女は、膝上に段ボール箱を置いて首を傾げている。黒髪は肩甲骨あたりまで流れ、透き通るような白い肌と、やや切れ長の瞳が印象的だ。大学に入ってから大人びた雰囲気を纏うようになったとはいえ、幼い頃からの素朴な可愛らしさが残っている。鼻筋はすっきり通っていて、唇にはほんのり桜色のグロスが艶めき、部屋の熱をはね返すような瑞々しさを感じさせる。頬を染めているのは夏の暑さだけなのか、それとも少しばかりの緊張のせいなのか。
「これ……思ったより生地が薄いかも」
彼女が小声で呟き、段ボールの中から取り出したビニール包装を少し揺らす。すると中身らしき黒い布地が儚げに踊った。その向こう側がほとんど透けているように見える。まさか、ここまで際どいものが届くとは想像していなかった俺は、喉元で唾を押し込む。
「さやか、ほんとにそれ着るつもりなのかよ?」
「いや、だって……『コスプレしたい』って言ったのは私だし、せっかくだからちゃんと試してみるよ」
まばたきしながら笑うさやかは、普段通りの軽い調子だが、その笑顔はどこか探るような色を孕んでいる。黒く透けるメイド服風コスチュームらしき布を持ち上げるたび、光を受けてきらりと妖しく反射する。
ネット通販で見つけたコスプレ衣装。最初は「ちょっと可愛くメイドさんごっことか面白くない?」くらいの軽いノリだった。俺だって「いいじゃん、着てみろよ」なんて冗談半分で同意したのに、届いた品は予想の斜め上を行く淫靡なデザインだったらしい。ここまで透け透けの生地なんて、どこの大人向けショップから流れてきたのか。しかも、エプロン部分が小ぶりなせいで、大事なところすら隠せるか怪しい。さやかは顎に指をかけて難しそうに眉を寄せるが、それでも後戻りはしないらしい。
「着替えてくるから、ちょっと待ってて」
「この部屋で着替えるの?」
「トイレでささっとやるから、変なことしないでよ?」
軽口を叩いて俺をからかうような笑みを浮かべ、さやかはビニール包装を抱えたまま立ち上がった。ふわりとした黒髪が揺れる際、微かにシャンプーの香りが鼻をくすぐる。さやかがバイト帰りに寄ったらしく、シャワーを浴びてきたのだろう。瑞々しい匂いが俺の脳をくすぐり、考えなくてもいいことを考えさせる。
その背中越しに覗く姿は、Tシャツとショートパンツというラフな格好。しかしあれが、これからどれだけ際どい姿に変貌するのかと思うと、胸元が熱くなっていく。
* * *
部屋の中に微かな水音が響く。どうやらトイレに行くついでにさやかは洗面台で何か整えているらしい。俺は居場所のない気分でベッド脇に腰掛け、軽く背筋を伸ばした。脚の間に生まれた微妙な緊張感が堪らない。待っている間、スマホでもいじろうかと思ったが、どうしても集中できず、ただ手元で汗ばむ指先を持て余すばかりだ。
しばらくして、トイレのドアが開くわずかな軋み音が聞こえる。慌てて視線をそちらに向けると、さやかがまるで舞台の袖から出てくる役者のように、少しずつ姿を現した。
「……ど、どうかな?」
小首をかしげる彼女を見た瞬間、呼吸が詰まる。黒いシースルー生地のメイド服風コスチューム。肩や腕はほとんど露出している。胸元は大胆なV字カットで、さやかの谷間がくっきり強調されている。そこに小さな白いエプロンが申し訳程度に掛かっているが、透けた生地の向こうには黒いブラが透けていた。しかもそのブラは、普段使いとは思えないほど小ぶりで、かすかに丸みを主張する膨らみが簡単に目に入る。ウエスト部分はキュッと締まり、ヒラヒラのフレアスカートは太ももの付け根あたりで止まっているが、生地が薄すぎて、その下に黒いTバックショーツの形まで浮かび上がってしまう。膝上まで覆う黒いニーソックスが、逆に太腿の肌を余計生々しく魅せ、カチューシャが少女的な可憐さを添えている分、その下で繰り広げられる露出とのギャップが壮絶だ。
全身が透けて見えるほどの生地越しに、柔らかな肌、腰のライン、華奢な肩の曲線、そして胸と尻の起伏がくっきり感じ取れる。視覚はもちろん、彼女が動くたびに空気が揺れ、その中に甘いシャンプーの香りが混じって鼻を犯す。さやかは頬を赤くしながらも、俺の反応をじっと待っているようだ。微かに聞こえる呼吸音が、静かな部屋で不自然なほど大きく感じられる。
「いや……想像以上に、その、すごい……」
正直、どこを見ていいか分からない。彼女の瞳とまともに視線を合わせたくないが、だからといって胸元や腰付き、もしくは下半身を凝視するわけにもいかない。視線を宙に漂わせる俺に、さやかは苦笑いする。
「うん、すごいよね、これ。思ってたのと違いすぎる……でも、こういうのが届いちゃったら試さないのももったいないしさ」
彼女がスカートの裾をつまむ仕草を見た瞬間、生地の薄さを改めて実感する。ほんの少し動かすだけで脚の付け根、いや、Tバックの紐がちらりと視界をかすめてしまいそうだ。肉感的な太腿の内側が光を受けて艶めいている気がするのは気のせいか。いや、気のせいじゃない。さやかの肌は、エアコンに頼りきりのこの部屋でうっすらと汗ばみ、しっとりとした質感を放っている。舌先が勝手に渇く。まるで透き通ったガラス越しに女体を観賞しているような背徳感と昂ぶりが、下腹部で熱く膨らんでいく。
「似合ってるよ」
やっとそれだけを絞り出すと、彼女は少し照れたように笑う。唇がかすかに震えているように見えた。
「本当に? 変じゃない?」
「いや、全然……むしろ、すごく……その、綺麗。エロいっていうか……」
「エロい……ふふっ」
耳元で甘く響く笑い声に、全身が熱くなる。さやかはソファへ歩み寄り、腰掛ける。俺は彼女との距離をどう取ればいいのか分からず、立ち上がるのもためらわれ、ベッドの端に座ったまま固まる。室内には人工的なエアコンの風が流れ、かすかなモーター音が場違いなほど淡白だ。
「ねぇ、颯太……こんな格好の女の子がいたら、男の子ってどう思うんだろう?」
その問いかけは、決して子供じみた無邪気さだけではない。誘惑めいた、あるいは実験的な響きを孕んでいた。俺は動悸をごまかすように咳払いする。
「そりゃ……その……気になる、と思うよ」
「気になる、かぁ。じゃあ颯太は、どうしてそんなに目をそらすの?」
意地悪そうに微笑む彼女は、足を組み替える。その拍子にスカートの端が軽く揺れ、透ける生地越しに曲線が見える。俺は慌てて視線を反らすが、まぶたを閉じてもさっき見た光景が焼き付いていて、はっきりと脳裏に残っている。部屋の隅で鳴った冷蔵庫の軽い振動音が、鼓動と重なり合って耳障りだ。
「だって……こんなの……俺、ただの幼馴染だし」
「幼馴染なら余計、こういうのって恥ずかしいかな? それとも安心して見せられる?」
「さあ……」
しどろもどろの俺に対して、さやかは軽くため息をつく。けれどその吐息は決して不快ではなく、むしろ色気混じりに思える。
「でも、実際着てみたら……なんか落ち着かない。透けてるし、下着まで丸見えじゃん。ね、そんなに見えてる?」
そう言いながら、彼女は自分の胸元をのぞき込む。その仕草につられて、俺も思わず見てしまう。黒い下着が透ける曲線、レースの質感すら見える気がするほどだ。生地が薄く、透き通るような布地を挟んでも、彼女が呼吸するたびにふわりと膨らむ胸の存在をはっきり感じる。全身にみなぎる生々しい女の気配が、視覚だけでなく、部屋の匂い、耳に届く吐息、そしてひりつく皮膚感覚までも刺激する。
「……しっかり見えてると思う」
苦労して吐き出した言葉に、さやかは赤面するような、照れ臭そうな顔をする。
「そっか、やっぱり……」
自分から言い出したはずなのに、彼女も困惑しているようだ。とはいえ、その困惑は決して不快なものではなさそうで、どこか楽しんでいるような空気が混ざっている。まるで、恥ずかしいはずの衣装を着た自分を、最も近しい異性である俺に見せつけて、その反応を確かめているかのようだ。
時間がじりじりと焼け付くように過ぎていく。蝉の鳴き声が微かに窓の外から漏れてくる。室内では、扇風機代わりに弱く回したエアコンの風が生ぬるく俺たちの肌を撫で、その湿度が淫靡な雰囲気を助長している。
「ねぇ、もう脱いでもいいよね? これ、さすがにずっと着てるのも変な気分だし」
「う、うん。そうだな」
俺が同意すると、彼女は少し考え込むような表情を浮かべる。だが、なぜかすぐには立ち上がらない。メイド服姿のまま、視線をこちらへ投げかけてくるさやかは、何か言いたげだ。だが結局、その言葉は飲み込まれたまま沈黙が落ちる。
この緊張感はなんだ。幼馴染という関係が揺らいでしまいそうな、奇妙な感覚が部屋に充満する。俺は心臓の鼓動を抑え込みながら、自然に振る舞おうとするが、どうしても無理だ。普通の会話に戻そうとしても、濃厚な視線と透けた衣装が頭にこびりついて離れない。これ以上何か言えば、堰を切ったようにおかしな方向へ転がってしまうかもしれない。
さやかは立ち上がることも、脱ぐこともせず、軽く肩をすくめて微笑んでいる。その笑顔はどこか悪戯っぽく、けれど嫌な感じはまったくない。むしろ幼馴染以上の刺激を求めてしまうような、危険な信号が混じっている気さえする。
窓の向こうで風がごうと鳴った気がする。どのくらい経っただろう。俺は声を出せず、彼女も何も言わない。ただ、性的な空気がとろりと流れ、喉が乾き、体中が熱を帯びている。それなのに、このシーンをここで終わらせてしまうのはもったいない。そんな妙な未練が、部屋の片隅でくすぶっている。
このまま終わるなら、それもいい。幼馴染として、ちょっと馬鹿なことを試して終わり……そんな程度の落ち着き先だ。しかし、さやかと俺の間には、先ほどまで感じなかった火種が散らばっているような気がした。そしてその火種は、まだちゃんとした炎にはなっていないが、少しのきっかけで一気に燃え広がるかもしれない。
彼女は表情を上手く隠し、俺も言葉を濁し、欲望と理性の境目を探る。そのまま日が傾きつつある部屋で微妙な緊張が残り、止まりかけた時計のような静寂が、二人の間に下りてきた。
次にどう動くかは、まだわからない。
* * *
エアコンの緩やかな風が部屋を撫でる。その中で、俺は微妙な緊張を抱えたまま、メイド服姿のさやかと向かい合っている。先ほどの曖昧な空気は、奇妙なまま持続していた。日が少し傾き始め、窓際の光は金色に染まり、雑然としたワンルームの輪郭を柔らかく浮かび上がらせている。さやかはまだ脱がないまま、透け透けの生地を揺らし、ソファに腰掛け、俺を見つめていた。
「ねぇ、もうちょっと……このままでもいい?」
そう言われて、俺は喉が詰まる。拒む理由なんてなかった。むしろ、続けて欲しいと心のどこかで叫んでいる自分さえいる。
「……ああ」
とりあえず肯定の声を出すと、彼女はほっとしたような表情を浮かべる。その頬は淡い赤みを帯びて、唇には自然な艶がにじむ。光を透かした黒のメイドコスは、さっきよりも彼女の身体に馴染んできたようで、わずかに汗ばんだ肌が布地に張り付き、微かに生地が胸や腰のラインに沿っている。そのおかげで、下着の形もますます鮮明に浮かび上がってしまう。
さやかは足を組み替え、ニーソックスに包まれた脚を揺らす。その仕草に伴って甘い香りが揺らめき、先ほどまで感じていた軽いシャンプーの香りが一層濃密に、熱を帯びて鼻腔を刺激した。鼻先にわずかな女の体温を孕んだ匂いが、淫らな連想を呼び起こす。俺の下半身は、どうしても落ち着いてくれない。
「さっきは、なんだか変な空気になっちゃったね」
彼女が苦笑しながら話しかけてきた。
「まあ、そうだな……」
「でも、嫌じゃなかった……でしょ?」
笑いながら覗き込んでくるさやかの瞳は、普段の幼馴染としての気安さと、見慣れない艶やかさが混ざっている。じりじりと感じる視線に、俺は噎せ返りそうなほど緊張する。
「うん、嫌じゃないよ」
正直に答えると、さやかは満足げに笑う。その笑みは、まるで「もっと踏み込んでみようか?」と誘うようだった。透けた生地を指先でなぞりながら、彼女は問いかける。
「ねぇ……こういう恰好してたら、男の子ってやっぱり……反応、するよね?」
生々しい問いかけに、鼓動が一気に早まる。冗談半分で済ませるには刺激が強すぎる。
「そりゃ、反応するだろ……」
「ふふ、そっか。ね、ちょっと……確かめていい?」
確かめる? 俺は眉をひそめるが、さやかはすでに立ち上がっていた。スカートの端が揺れ、下着が透ける影。透き通る布地の向こうで、黒いTバックとブラが妖しく存在を主張している。
「ここ、座って」
彼女に促されて、俺はベッドからソファへ移る。ソファは2人が並ぶとやや窮屈で、肩が触れ合いそうな距離感だ。彼女は俺のすぐ隣、膝を折るように座り直す。その姿勢が、妙に優雅で、そして危うい。艶やかな黒髪は首筋をなぞるように垂れ、俺の耳元でかすかな衣擦れの音がする。
「……ごめん、ちょっとやりすぎかな? でも、なんか止まらないんだ」
さやかは小さく呟くと、そっと俺の膝の上に手を乗せた。その手はほのかに湿り気を帯びていて、指先が一瞬震えたように感じる。暑さのせいだろうか、指の腹がじんわりと伝わる体温を運んでくる。その温かい感触が、ダイレクトに俺の理性を溶かし始める。
「もし嫌だったら、すぐ言ってね」
色香を孕んだ声でそう言い、彼女は俺の脚の付け根を見つめた。ジーンズ越しに自分がどんな状態になっているか、なんとなく察しているんだろう。視線が恥ずかしくて、思わず目を伏せると、さやかは苦笑まじりに囁く。
「なんか、すっごく固くなってる……」
その言葉に心臓が跳ね上がる。幼馴染の女の子にこんな直接的な指摘をされる日が来るなんて、思いもしなかった。可愛くて、無邪気で、でも今は淫靡なメイド姿で俺の股間を窺う彼女。思考が混乱しそうだ。
「ねぇ、ちょっとだけ……触ってもいい?」
拒否できるはずもない。言葉を発する前に、さやかは細い指で俺のジーンズのファスナー付近をなぞる。その際、彼女の呼吸音が微かに弾んだ気がする。すると、布越しに勃起した部分を確かめるような動きへ移り、軽く掌で押し当てる。緩やかな圧迫感が、焦らしのように俺を翻弄する。
「ほら、すごい……。んふ、こんなになってるんだ……♡」
彼女の声が甘く湿り、語尾に小さな笑みが混ざる。その瞬間、俺は頭が真っ白になるほど欲望を刺激される。匂い、体温、透ける衣装、そして甘く囁く声。すべてが俺の五感を犯している。辛うじて理性を繋いでいるが、このままでは溶けてしまいそうだ。
「ごめん、なんか恥ずかしいな」
「いいよ、恥ずかしがることないって。私だって、こんな格好だし……ね?」
さやかは笑うと、躊躇いがちにジーンズのボタンに手をかける。俺が何も言えずにいると、それを了承と受け取ったのか、彼女は器用にジッパーを下ろす。布と金属の微かな擦れる音が耳を刺し、外気が俺の下半身を優しく撫でる。
「下着、見えてる……」
小さく言ってから、彼女はゆっくりと手を滑らせ、俺のパンツ越しに固くなったモノへ触れる。しなやかな指先の動き、香り立つ女のフェロモン、そして小さな吐息が俺の耳元で震える。
「……これ、もっとちゃんと触ってみたいな。嫌じゃない……よね?」
「……ああ、嫌じゃない」
声がかすれるほど緊張しているのに、下半身は正直に反応を返している。さやかは微笑み、パンツのゴムを少しずつ下げていく。黒い生地のメイド服越しに見える彼女の指、その向こう側に透ける肌、チラリと覗く胸のライン。視線がどこへ定めていいか分からない。
「わ……すっご」
パンツから引き出された俺のモノを見て、さやかは目を見張る。少し興奮気味な声で、まるで初めて見る不思議な生物でも観察するように凝視してくる。その視線が、熱い。
「ちょっと失礼して……」
彼女は慎重な手つきで包み込むように触れ、指をゆっくりと上下に滑らせる。布越しでなく、直接触れられる快感は、電撃のように背骨を駆け上がる。熱く、湿った彼女の手は、今まで知ることのなかった悦びを俺に教え込もうとしているらしい。
「ん、こうやって動かすと……気持ちいいのかな?」
さやかは興味深げな声で問いかける。返事する前に、彼女はその細く柔らかな手でさらに上下の動きを加速させる。微かな水音にも似たぬるりとした湿度を指先に感じるのは、俺が興奮しすぎて汗ばみを帯びているからだろうか。それとも彼女の手がほんのりと湿っているのか。
「んっ……♡」
さやかが小さく鼻を鳴らすような声を漏らす。その声に「♡」が付くほど甘ったるく響いて、俺の理性をさらに崩す。彼女も手応えを感じたのか、手首のスナップを効かせて先端を優しくこねるような仕草を見せる。
「はぁ……」
耐えきれず、俺の唇から熱い息が漏れる。視界が霞むほどの快感が、腰の奥でうねり、脳髄を揺らす。まだ絶頂には遠いが、この段階でさえ想像以上の刺激だ。
「もっと気持ち良くしたいな。ねぇ、舐めても……いい?」
一瞬思考が止まる。耳を疑うような台詞。だが、彼女は真剣だった。透けるメイド服を揺らしながら膝立ちになり、俺の下半身へ顔を近づける。その時、髪がふわりと揺れ、石鹸のような清廉な香りが混ざる。甘く淫らな行為に不似合いなほど清らかな匂いが、逆に興奮を煽る。
「初めてだから、うまくできるか分かんないけど……ん、いくね♡」
そう言うと、さやかは唇を開き、先端を柔らかく受け入れる。温かく、しっとりと湿った口内が、先ほどの手の感触とはまったく別の世界へ俺を連れ込む。
「ぢゅっ、ぢゅっ♡……れろ、ちゅっ♡んぶっ、ぷはっ……♡」
水音を立てながら、舌先が絡みつく。柔らかな舌、頬の内側の滑らかさ、唇の弾力。その全てが官能的な調べを奏でている。時折、彼女が軽く吸い込むたびに、先端が甘く引き絞られ、心臓が高鳴る。
「れろ、れろぉ♡……はむっ……ちゅっ♡」
粘膜が擦れる音に合わせ、俺は言葉にならない呻き声を押し殺す。目を閉じて感じると、五感は下半身に集中する。彼女の口内が小さな肉の部屋となり、そこへ包み込まれるごとにトロリとした甘い震えが脊髄を駆け上がる。彼女はぎこちないながらも、俺が反応すると嬉しそうに舌遣いを変え、少しずつリズムを整えていく。
「ちゅっ、ぢゅっ♡……んっ……♡」
吸い込んだり、ぺろりと舐めたり。唾液が糸を引くたびに、先端が優しく包み込まれ、熱い快感が止め処なく溢れ出す。うわごとのような息が漏れ、思わず腰が浮き上がりそうになるのを必死でこらえる。視界の端で、メイド服のフリルが揺れ、彼女の黒髪が頬にかかる。
息を詰めて感じていると、さやかは先端をくるくると舌で転がしながら、気持ち良さそうな声を微かに漏らす。まるで俺の快楽が自分にも伝わっているかのようだ。
「れろ……ぢゅっ♡……ぷはっ……どう? 気持ちいい?」
「す、すげぇ……」
それ以上言葉にならない。彼女は軽く笑い、再び咥え込む。舌がねっとりと絡み、唇が密着し、内側の柔肉が吸いついてくる。先端から腰にかけてビリビリと痺れるような感覚が拡大し、下腹部で何かがはち切れそうになる。
ついに耐えきれなくなり、俺はさやかの頭に手を添えそうになるが、必死に踏みとどまる。その代わり声が漏れる。
「あっ……さやか、もう……ヤバい……」
それを聞いた彼女は、さらに強く吸い込み、ぐちゅりとした音を立てて口内で締め付ける。もう後戻りできない。視界が白く塗り潰され、快感が一気に爆発しそうだ。
(もうダメだ……出る……出る……)
最後の瞬間、さやかは俺を口中で受け止めるべく、ぴったりと吸いついた。喉の奥で小さく鳴る音、彼女の熱い吐息。何度か波を繰り返しながら、濃厚な快感が頭蓋骨を砕くような衝撃で弾け飛ぶ。
「ん゛……っ♡ んぶっ、んぐ……♡」
湿った音とともに、理性が霧散する。あまりの気持ちよさに時間感覚が失われ、ただ彼女の口中でトロトロと溶けていくような感覚に酔い痴れる。喉が鳴る音さえ聞こえる気がする。甘く痺れる余韻の中、彼女は口を離すと、小さく息を吐き、顔を赤らめながら舌先で唇の端を拭う。
「ぷはっ……♡……すごかった」
その言葉に、俺は肩で息をしながら茫然とする。さやかは頬を染めつつ、優しく微笑んでいる。まだ透けた衣装を着たまま、膝立ちの姿勢で、目の前に艶やかな表情を浮かべていた。
室内にはもう、さっきまでの曖昧な空気はない。代わりに、秘密を共有してしまったかのような甘酸っぱい気配が漂っている。彼女は何も咎めず、ただ満足そうな笑みを浮かべて、そっと俺の股間に視線を落とす。
「……こんなの、やっちゃったね」
「……ああ」
言葉少なに返すと、彼女は軽く肩を揺らし笑う。そこには重苦しい後悔や複雑な感情はない。ただ、少し照れ臭くて、でも悪くない不思議な気配がある。
「変なものが届いたおかげかな」
「だな」
互いに苦笑し、部屋の中には二人分の吐息が混ざり合う。外では蝉が鳴いている。世界は何事もなかったように回っているが、今この部屋の中には、幼馴染同士が一線を越えた甘い秘密が残っていた。
* * *
部屋の中はさきほどまでの余韻に包まれていた。フェラチオまで終えてしまったあと、俺とさやかは何とも言えない甘ったるい沈黙を共有している。窓の外はすでに日が落ちてきたらしく、カーテン越しの光はオレンジ色から青灰色へと変わり始め、部屋全体が薄暗い柔らかな明かりに包まれている。エアコンの吐き出す生温い風が、静かに肌を撫でた。
ソファから立ち上がったさやかは、まだあのスケスケのメイド服風コスチュームを身にまとったままだ。先ほど口内で俺を受けとめた彼女の唇は、まだ淡く紅潮しているように見える。黒髪は少し汗ばんだのか、うなじに張り付き、いつもより艶やか。視線を合わせるたび、僅かな恥じらいと熱を孕んだ眼差しがぶつかるたび、胸の奥がじわりと疼く。
何気なくベッド脇に腰掛け直した俺を見て、彼女はゆるりと微笑む。その笑顔は、いたずらっぽさと色気が混ざり合い、幼馴染に対して持っていたはずの境界線を曖昧にしていた。
「ねぇ、さっきの続き……したくない?」
その問いかけに、正直なところ躊躇などない。すでに互いの肌を、そして快感を共有した後だ。俺も下半身は名残惜しそうにまだじんわりと熱を帯びている。彼女が誘ってくるなら拒む理由など見当たらない。
「したい……」
素直に答えると、さやかは満足げに笑う。もう後戻りなんて頭にない。あくまで軽い実験のはずだったけれど、今はこの状況が心地よくてたまらない。
「じゃ、ベッド……座って。もうちょっと楽な体勢でさ」
俺がベッドの中央へ移動すると、彼女は薄闇の中、ふわりと舞うような所作で近づいてくる。透ける黒いメイドコスの生地越しに見える豊満なバスト、すらりとした腰、そしてTバックの紐が淡く浮き上がるヒップライン。白い肌が闇に溶けかけた光を受け、妖しく輝いている。
「まだ着てていいよね……この服」
聞かれて、俺は慌てて頷く。むしろ脱がないで欲しい。透ける布ごしに女体が浮き上がる背徳的なエロさは、他にはない刺激をもたらしてくれるからだ。
「嬉しい……んふ♡」
甘い吐息を漏らして、さやかは俺の膝上へゆっくりと跨る。その動きは慎重で、けれど迷いがない。膝を折り、ベッドのマットレスが軽く沈む音。腰が近づき、彼女の体温が直に伝わる距離に来ると、全身が粟立つような緊張が走る。メイド服のヒラヒラが俺の腹に触れ、透けた生地越しに柔らかさと微熱が滲む。
「ん……こうしてると、熱いね……」
薄暗がりで微笑むさやかは、髪をかき上げて汗ばんだ首筋を見せつける。その瞬間、甘く湿った人肌の匂いが鼻腔をくすぐる。汗とシャンプー、そしてわずかに混ざる下着越しの彼女自身のフェロモン……理性を溶かす匂いは、部屋を湿った蜜壺のような空間に変えつつあった。
「ねぇ、キス……してもいい?」
問わず語りのような彼女の言葉に、俺は無言で顎を引く。すると、さやかがゆっくりと顔を寄せてきた。頬が触れ合う瞬間、肌と肌がひんやりした汗膜を共有し、柔らかい唇同士が重なり合う。
「ん……ちゅ、れろ……♡」
舌先が絡み、唾液が混ざるたびに甘くとろけるような快感が拡散する。視覚が暗くなり、聴覚は彼女の息遣いだけを捉え、嗅覚は彼女の匂いに満たされ、触覚は柔肌を探る手のひらに集中する。唇を合わせて、舌をからめるたびに、五感が彼女へ溶け込んでいく。
「はぁ……♡」
キスを解くと、さやかは潤んだ瞳で微笑む。すでに胸元は大きく上下し、透けた生地の下で黒いブラがかすかにずれているのが分かる。
「……もう、入れちゃおうか」
その一言に、腰が跳ね上がるほどの刺激が走る。彼女がそう言うのを待っていたと言わんばかりに、俺の下半身は再び堅く反り返る。さやかは俺の視線に気づいたのか、下を見る。そのとき、薄いメイド服越しに先端が彼女の下腹部あたりへ柔らかく触れていることを感じる。
「ごめん、ブラ……ずらすね……んっ……」
彼女は器用に胸元のブラを横へ指先で押しやり、メイド服の透ける生地越しにぷっくりとした乳房を解放する。その瞬間、黒い生地を透して乳首が淡い影を作り、立ち上がった小さな突起が妖艶に浮かび上がる。甘い吐息とともに、彼女はスカートの裾を指でつまみ、Tバックの位置を少しずらした。透ける布と下着の乱れが、もう後戻り不可能な官能の時間へと俺たちを引きずり込む。
「ん……ちゃんと、濡れてるかも」
恥ずかしそうに言いながらも、彼女は指先で秘部を確認するような仕草を見せる。すると、微かな水音が耳を打つ。先ほどの愛撫や雰囲気で、彼女の中はすでに十分に潤っているらしい。その証拠に、俺が腰を少し動かせば、先端がすんなりと彼女の入り口へフィットしそうな感覚がある。
「ねぇ、ゆっくり……入れるね……♡」
甘い声とともに、さやかは腰を沈めてくる。スケスケのメイド服が俺の腹をさらりと撫で、その向こう側で彼女の太腿と俺の腰が密着する。先端が柔らかな粘膜に触れ、じわりと押し入る瞬間、二人同時に息を飲む。
「んあっ……♡ あ、はぁ……♡」
その声は甘く、切なげで、しかし底なしの快感を孕んでいる。膣内がぬるりと熱く、俺を歓迎するように締め付けてくる。その感触は先ほどまでの愛撫とは比べ物にならないほど濃厚で、絡みつく柔らかさに一瞬で意識が遠のきそうだ。
「すごい……中、あったかい……」
俺が呟くと、さやかは顔を赤らめながら肩を上下させる。頭上の薄暗い空間で、彼女の黒髪が揺れ、甘い香りが降りそそぐ。ニッチもサッチもいかないほど密接な体勢で、二人の体温と液体が混ざり合い、理性は蕩けていく。
「ゆっくり、動くよ……んっ♡……はぁぁん……♡」
さやかは自分から腰をくねらせ、ゆるやかな上下動を開始する。そのたびに、秘部が俺を飲み込み、緩やかに締め付けては解放する。水っぽい音がベッドの上で微かに響き、透けた生地が揺れるたび、彼女の胸もぷるりと震える。
「んっ……♡ あぁ……♡ くっ……んんっ……♡」
甘い喘ぎ声が部屋を満たす。一度腰の動きに慣れると、さやかはスピードを少し上げ、深く突き刺すように沈み込んでくる。そのたびに熱い内壁が俺を包み、ちゅく、くちゅ、と濡れた音が混じる。まるで蜜壺の中に溺れているような錯覚に陥るほど、しっとりとした肉の包容力が凶悪なまでに気持ちいい。
「はぁっ……♡ さやか……やばい……めちゃくちゃ気持ち……いい……」
声が上ずると、彼女は妖艶な笑みを浮かべ、さらに腰を振る。透明な汗が鎖骨に溜まり、それが滴り落ちて透けるメイド服の胸元を濡らす。光を失いつつある室内で、その雫が宝石のように輝き、俺の理性をかき回す。
「んぁ……♡ んっ……♡すごい……お腹の中、熱くなってる……♡」
彼女も感じているらしく、その喘ぎはますます甘さを増していく。柔らかな太腿が俺の腰にしがみつくように絡み、透けたスカートが俺の腹をちろちろと撫でる。鼻先には汗と体液が入り混じった、甘酸っぱい匂い。それが獣の交尾を思わせるほど生々しく、しかし俺たちは理性を失わない程度に楽しんでいる。幼馴染という関係性が、この淫らな遊びをよりスリリングにしているのかもしれない。
「んんっ……♡ あっ、あぁぁっ♡……すごい、気持ちいい……もっと……深く……♡」
限界を感じて、俺は彼女の腰を掴み、反対に突き上げるようにしてみる。すると、さやかは嬉しそうに目を細め、さらに奥へと誘導するように身体をくねらせる。上下の動きが激しくなり、布が擦れる音と粘液の艶やかな水音が絡み合う。
「やば……もう……イクかも……」
自分でも信じられないほど早く昂ぶりの頂点に近づく。ここまで濃厚な感触に溺れたことはない。さやかも同じなのか、呼吸が荒く、声が震え、吐息に情熱的な甘さが増している。
「んぁあっ♡ あぁっ♡……イッ……ちゃう、かも……♡」
同時に絶頂へ向かう気配を察し、互いの腰が止まらない。視界はぼやけ、意識が狭まる。もう時間の流れを感じない。あるのは絡み合う肉と肉、甘い香り、淫らな喘ぎ声、そして溢れ出す熱い欲望だけだ。
――もう、限界だ。
「ああっ……♡♡ んぁぁああっ♡♡」
さやかが高く響く喘ぎ声を上げた瞬間、俺も腹の底から熱い津波が押し寄せる。全てが白く焼き付くような痺れが脊髄を貫き、意識が跳躍する。腰が自動的に突き上がり、深く深く貫いた先で、濃厚な快感が二人を包み込む。
呼吸もままならないほどの余韻に浸ったまま、二人はしばらく動けない。さやかは俺の胸元へ頭を預け、微かに震える息を繰り返す。透けたメイド服が汗でしっとり貼り付き、柔らかな乳房が俺の胸板に押し当てられ、心臓の鼓動が互いに伝わる。
「はぁ……♡……すっごい……」
彼女が小さく呟く。その声は満ち足りていて、困惑や後悔といったネガティブな感情はない。ただ、体温と快楽を共有した満足感が、薄闇の中で穏やかに揺れている。
「ほんと……すごかった……」
俺も声を絞り出すと、さやかは微笑み、額にかかった黒髪を払う。ベッドの上で重なり合ったまま、一瞬時が止まったような静寂が訪れる。外の蝉の声ももう聞こえない。夜が近づき、さやかの吐息が優しい子守唄のように耳をくすぐる。
互いの関係性が何かに変わったわけでもない。幼馴染として過ごしてきた時間があるからこそ、この一線を超えた行為も自然と溶け込んだように思える。それだけだ。深い意味や将来を約束することはない。ただ、コスプレ衣装をきっかけに、二人は思わぬ扉を開けて、そこにある快楽を素直に味わったに過ぎない。
「また、機会があれば……やろうか」
軽く言うと、さやかは笑う。「ふふ、そうだね」と、特に否定も肯定もせず、曖昧な微笑みを浮かべる。その曖昧さが、かえって心地よい。二人の世界は、友達以上恋人未満の関係性を保ったまま、淫らな秘密を共有しているのだから。
そんな妙な満足感と共に、俺たちはひとまず静かな夜を迎えようとしていた。部屋の光はほとんど消え、エアコンの風が少し乾いた気配を運んでくる。さやかはそっと俺から離れ、メイド服を整えるでもなく、ただ透けた生地のまま横に並んで寝転がる。微かな笑い声と、汗の香りが漂う夜。互いの存在を確かめるように、また小さなキスを交わし、俺たちは満ち足りた沈黙に溶け込んでいく。
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